わたしを束ねないで
あらせいという花のように
白い葱のように
束ねないでください
わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂
わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください
わたしは羽ばたき
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音
わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください
わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水
わたしを名づけないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
座りきりにさせないでください
わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風
わたしを区切らないで
「、」(コンマ)や「。」(ピリオド) いくつかの段落
そしておしまいに「さよなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください
わたしは終わりのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 広がっていく 一行の詩
新川和江
33歳の頃、私は迷路に迷い込んでしまったのです。
その時の師、本多先生(から頂いた一冊の詩集が、「新川和江」
私は初めてこの方と出逢いました。
そしてすぐに、瑞々しい自由な感性で、
ひとりの女性として、母性愛や男女のさまざまな愛の姿を詠う、
彼女の言葉のとりことなったのです。
あれから20年…
私は時空を彷徨う旅人。
確かに自由になりました。
本多寿先生は第42回H氏賞(エイチししょう)受賞者。
H氏賞とは日本現代詩人会が主催する、
新人のすぐれた現代詩の詩人の詩集を広く社会に推奨することを目的とした文学賞。
詩壇の芥川賞とも呼ばれる
そして今朝、私たちの星の最古の花と言われる「マグノリア」に出逢いました。
風が…吹いたのです…
★みこ☆